精神障害を持つ人が適している職業に就くことは、偏見や理解不足により難しいという現状があります。そのため、精神障害の方は以下のようなお悩みを抱えている方が少なくありません。
「精神障害の人は就職できないのか」
「精神障害の人が働きやすい職場はないのか」
精神障害の人が利用できる就労支援は多く、適切なサポートを利用することであなたに合った仕事に就きやすくなります。
この記事では、精神障害の方が利用できる就労支援の種類や経済的支援をご紹介します。また、精神障害の方に向いている仕事も紹介するので、就労について悩まれている方は今後の参考にしてみてください。
精神障害とは
精神障害とは、脳の機能になんらかの問題が起こったことで発症する精神疾患の総称です。統合失調症やうつ病、適応障害、不安障害、てんかん、依存症などが精神障害に分類されます。症状は多岐にわたり、重い方の中には日常生活に支障をきたすケースもありますが、服薬することで症状をコントロールし、一般枠で働いている方も少なくありません。
精神障害の種類
ここでは主な精神障害の種類と特徴をご紹介します。
統合失調症:原因ははっきりとはわかっていませんが、100人に1人弱の割合で発症している病気です。妄想や幻聴、意欲の低下などの症状があらわれます。薬物療法で症状が緩和し社会生活を送れるようになる方もいます。
気分障害(うつ病、躁病、躁うつ病):気分の波が症状としてあらわれる病気です。うつ状態では意欲の減退や憂うつな気分、疲れやすい、不眠症、食欲不振などの症状があらわれます。躁状態では、気分高揚や異常な活動性、注意散漫、焦燥感、浪費などの様子がみられるようになります。躁うつ病(双極性障害)は、躁状態とうつ状態を繰り返す病気です。気分障害の方の中には、生活のリズムを整え薬物療法と心理療法を受けて症状をコントロールしながら仕事をしている方もいます。
てんかん:一時的に脳の一部が過剰な電気活動を起こすことで、発作が起こる病気です。てんかんには、けいれんを伴うもの、意識を失うもの、認知の変化を伴うものなどさまざまなタイプがあります。抗てんかん薬を服用し発作を抑えることで、働くことが可能です。
依存症:アルコールや薬物、ギャンブルなど特定の物質や行動への強い欲求が、自分の意志ではコントロールできずやめられなくなってしまう病気です。重度の依存症になると、働くことが難しくなり、退職せざるを得ないこともあります。依存症は一度症状が軽くなったとしても再発しやすい病気のため、就職のタイミングは主治医とよく相談して決める必要があります。
高次機能障害:脳梗塞や脳出血などの脳血管障害や事故などにより、脳がダメージを受けることで、記憶や認知・行動などの脳機能の一部に障害が発生した状態。本人が症状に気づきにくく、外見上からはわからないため、周囲から理解されにくいといわれています。症状はダメージを受けた脳の位置や大きさによって異なり、複数の症状があらわれる方も少なくありません。高次機能障害の方が仕事をするためには、本人が症状を自覚して事前に対策を立てておくことで、働きやすさが変わります。また、症状を周囲に説明して、理解してもらうことも重要です。
参考:厚生労働省「障害者差別解消法福祉事業者向けガイドライン」
精神障害のある人が利用できる就労支援
精神障害の人が利用できる就労支援を以下の表にまとめました。効率よく就労支援を利用するためには、自分の状況に適した支援を選ぶことが重要です。
利用できる就労支援 | 内容 |
職業紹介 | 職業を紹介してくれます。それぞれの職業のメリットやデメリット、給与、待遇についてのアドバイスもしてくれます。 |
就労相談 | 仕事に関する悩みや疑問に対してアドバイスをしてくれます。どの職業に向いているのか適性検査も実施してくれる場合もあります。 |
職業訓練 | ビジネスマナーや簿記、パソコンでの文書作成など仕事をするうえで必要となる技術や知識を身につけるサポートをしてくれます。 |
就活サポート | 履歴書の書き方や面接対策、職業体験先の紹介、職場探しなどのサポートをしてくれます。 |
就労定着支援 | 働き先の環境や業務内容に順応して、安定して働き続けられるようにサポートをしてくれます。 |
職場復帰支援 | 休職している方の職場復帰を円滑に進めるためのサポートをしてくれます。 |
職場適応援助者 | 職場適応援助者が職場を訪問し、精神障害の人が職場に適応できるようにサポートをしてくれます。サポートは精神障害の人だけではなく、職場の上司や同僚に精神障害の人への関わり方や指導法などのアドバイスも行います。 |
精神障害の人が利用できる就労支援機関
就労支援機関は、ひとつしか利用できないというわけではありません。そのため、複数の機関を見学し、自分の状況に適した支援機関を見つけましょう。
就労移行支援事業所:一般企業への就職を目指す方が、必要となる知識や技術を身につけるための支援を行う機関です。また、就職後に働き続けるための定着サポートも行ってくれます。
ハローワーク:職業相談や職業紹介などの支援を行ってくれる機関です。希望すれば面接へ付き添ってもらうことも可能です。
障害者就業・生活支援センター:就労と生活の両面をサポートしてくれる機関です。就労面でのサポート内容は、就労相談や就活サポート、就労定着支援などがあります。生活面でのサポートは、健康管理や金銭管理のサポート、各種手続きのサポートなど多岐に渡ります。
地域障害者職業センター:職業評価や職業指導、職業訓練、職場適応援助、リワーク支援などを専門的な職業リハビリテーションが受けられる機関です。また、雇用事業主に対して、雇用管理に関する専門的なアドバイスも行っています。
就労継続支援A型事業所:一般企業で働くことが難しい方を対象に、雇用契約を結び働く場所を提供してくれます。また、働くために必要な知識や技術を身につけるための訓練も受けられます。
就労継続支援B型事業所:働く場所の提供や働くために必要な技術や知識を身につけるための訓練を受けられます。就労支援A型とは、雇用契約を結ばず最低賃金が保証されていないという点が異なります。
精神障害のある人が利用できる経済的支援
精神障害の治療が長期に渡ると、治療費や生活費の負担が大きくなり、経済的な不安を抱えている方は少なくありません。また、経済的な不安を抱えていると治療に悪影響を与えてしまう可能性もあります。そこでここでは、精神障害の人が利用できる経済的支援についてご紹介します。
ご紹介する経済的支援はすべての精神障害の方が受けられるとは限りません。支援の対象にあてはまるかは症状や状況などによって異なります。興味がある経済的支援がある方は、市町村の福祉課などに相談してみてください。
傷病手当金
傷病手当金は、業務外の病気やケガで休職し、十分な給料がもらえないときに支給される手当金です。会社員や公務員を対象にした経済的支援制度のため、国民健康保険加入者は利用できないので注意してください。支給額は、日割給与の2/3で、最長で1年6ヶ月支給されます。
傷病手当金の支給条件
以下の①~④の条件をすべて満たす必要があります。
- 業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること
- 仕事に就くことができないこと
- 連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと
- 休業した期間について給与の支払いがないこと
引用:「全国健康保険協会」
自立支援医療制度
精神疾患で継続的に通院による治療が必要になったとき、医療費の自己負担を軽減してくれる制度です。一般的には、医療費の3割負担が1割負担に軽減されます。申請に必要なものは自治体により異なることがあるので、役所や精神保健福祉センターに問い合わせてみて下さい。
雇用保険(失業保険)
雇用保険は、精神障害の方に限らず仕事を辞めた人が再就職をするまでの間、失業保険を受給できる制度です。
精神障害の方は、就職困難者に該当されるケースがあり、雇用保険の受給条件が一般の方より緩和されます。自分が就職困難者に該当するかをハローワークで確認しておきましょう。
受給額は、日割給与の50~80%で、給与が少ない方ほど80%に近い金額を受給できるようになっています。
雇用保険の給付期間は、勤続年数や年齢、退職理由により異なります。しかし、就職困難者の給付期間は、一般の受給者よりも長く、勤続年数は関係ありません。就職困難者の失業保険の受給期間を以下の表にまとめました。
年齢 | 被保険者期間が1年未満の給付期間 | 被保険者期間が1年以上の給付期間 |
45歳未満 | 150日 | 300日 |
45歳以上65歳未満 | 360日 |
障害年金
病気やケガなどが原因で一定程度の障害がある人に、生活を保障するために年金加入者が受給できる年金制度です。受給額は、個々の状況や障害等級により異なるので、年金事務所に問い合わせしてみて下さい。
障害年金の受給条件は以下の3つの条件をすべて満たす必要があります。
- 障害の原因となった病気やケガの初診日が、国民年金加入期間もしくは20歳前または60歳以上65歳未満で年金制度に加入していない期間。
- 障害認定日に障害等級表に定める1級もしくは2級に該当していること(障害厚生年金は1~3級)。
- 初診日の前日に、初診日がある月の前々月までの被保険者期間で、国民年金の保険料納付期間と保険料免除期間をあわせた期間が3分の2以上あること。
ただし、初診日が令和8年4月1日前にあるときは、初診日に65歳未満であれば、初診日の月の前々月までの直近の1年間に保険料の滞納期間がないこと。
参考:日本年金機構「障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額」
生活困窮者自立支援制度
失業などにより経済的に困窮している方が、状況に応じた支援を受けられる制度です。生活保護に至る前に自立を支援する目的で制定された制度のため、基本は現金給付ではなく自立相談支援や就労準備支援などが受けられます。しかし、住む場所がない方やなくなる可能性が高い方は、条件を満たしていれば家賃相当額の給付を受けられます。生活困窮者自立支援制度を利用したい方は、市町村の生活福祉課などに相談してみて下さい。
生活保護
生活に困窮している人に対して最低限度の生活を保障するため、現金を支給して支援する制度です。生活保護受給中は、医療費の自己負担もなくなり、治療に専念することができます。しかし、利用条件は、他の経済的支援よりも厳しく、本当に必要な人だけが受けられる支援です。申請を希望される方は、お住いの福祉事務所に相談してみて下さい。
精神障害者保健福祉手帳(障害者手帳)
精神障害を患い、長期にわたり生活が制約されている方に対して発行される手帳です。手帳を取得すると以下のような支援が受けられます。
- 公共料金の割引
- 所得税・住民税の控除
- 生活福祉資金の貸付
- 鉄道・バス・タクシーなどの運賃割引
- 携帯電話料金の割引
- 軽自動車税の減免
- 公営住宅の優先入居
自治体により受けられる支援が異なるので、詳しく知りたい方は市区町村の担当窓口に問い合わせてみて下さい。
労災保険
業務や通勤が原因でケガや病気、障害を負ったと認められた場合に受けられる補償制度です。労災保険は、雇用形態にかかわらずアルバイトもパートタイマーも対象となります。
労災と認定されるには、業務や通勤が原因で精神障害になったという客観的証拠が必要です。労災保険の申請を希望する方は、労働基準監督署に相談してみてください。
精神障害の人が向いている仕事
精神障害には多くの疾患が含まれ、同じ疾患でも症状もさまざまです。そのため、一概に精神障害の人が向いている仕事をあげることは難しいのですが、以下の環境が整っている職場がおすすめです。
- 他にも精神障害の人が働いている
- 柔軟な勤務形態を採用している
- 相談窓口が設置されている
他にも精神障害の人が働いている
すでに精神障害の人が働いている職場は、精神障害に対して理解があり、受け入れる環境が整っている職場といえます。そのため、初めて精神障害の人を雇用する企業に比べると長い間、安定して働ける可能性が高いといえるでしょう。
柔軟な勤務形態
精神障害の症状は不安定で日によって調子の波がある傾向があります。そのため、フレックス制や在宅ワーク、通院休暇が認められているなど柔軟な勤務形態を採用している職場が向いています。
相談窓口が設置されている
精神障害は、精神的な負担が病状を悪化させることにつながる可能性がある病気です。そのため、仕事上の悩みを相談できる窓口が設置されている職場なら、万が一のときに相談できるため精神的に楽に働けるでしょう。
精神障害の人が向いている仕事の一例
- 事務職
- 研究職
- エンジニア
- デザイナー
- ライター
- プログラマー
- 翻訳家
- 清掃員
- 配達員
- 工場のライン作業員
- 商品の仕分け作業
まとめ
同じ仕事でも職場環境によって働きやすさは変わります。そのため、長く働き続けるためには、自分が働きやすい職場を見つけることが重要です。
まとめ
精神障害の人が利用できる就労支援や向いている仕事について紹介しました。精神障害は、一度改善しても再発しやすい病気です。そのため、就労支援を利用するときや就職するときは、かかりつけ医に相談してから決めるようにすることをおすすめします。体調が悪くなった場合は、無理をせずに休養をすることも大切です。
自分の状況に適した支援を行ってくれる機関を探して、就労支援サービスを受けましょう。