自閉症(自閉スペクトラム症、ASD)と診断された方が経済的に困っているとき、就職や転職を目指したいときには利用できる支援があります。今回の記事では自閉症の方が受けられる経済的支援や就労支援、さらに向いている仕事について解説します。
自閉症とは
自閉症とは正式名称「自閉スペクトラム症(ASD)」の、発達障害のひとつです。
自閉症の特徴
自閉症は生まれつき、脳の中枢神経系という情報を整理するメカニズムに特性があります。そのため、人により、または発達段階に応じて以下のようなさまざまな障害特性が見られます。
・社会的なコミュニケーションの困難さ
・空間・人・特定の行動に対する強いこだわり
・社会的な関係のもちづらさ
・コミュニケーションの困難さ
・特徴的な行動や動作
・活動や興味の範囲が狭い
・変化に対する不安や抵抗
・社会的なイマジネーションの課題
・感覚の過敏さと鈍さ
自閉症の方は障害特性により、日常生活や社会生活に困難さを感じることも少なくありません。
自閉症の原因
自閉症の原因は遺伝をはじめ多くの要因が複雑に関与していると考えられており、いまだ正確な原因は解明されていません。ただし自閉症は先天的な発達障害であり、親の育て方・虐待・愛情不足、トラウマなどが原因の後天的な病気ではないことを覚えておきましょう。
自閉症の割合
一般社団法人日本自閉症協会によると、人口に対する自閉症の方は、おおよそ20人~40人に1人(2.5%~5%)の割合で存在すると言われています。
自閉症の方が利用できる経済的支援
自閉症と診断されると、通院や服薬が必要な場合があり、経済的な負担が大きくなることがあります。自閉症の方の経済的な負担を軽減できる支援制度を紹介します。
自立支援医療(精神通院医療)
通院による治療を続ける必要のある自閉症の方が住まいの自治体の窓口にて申請を行うことで、受けられるのが「自立支援医療(精神通院医療)」です。適用されると、指定の医療機関や薬局での自己負担が1割(通常は3割)になります。また、世帯の所得に応じて1ヵ月あたりの負担に上限が設けられます。
精神障害者保健福祉手帳
精神障害者保健福祉手帳とは、一定程度の精神障害の状態にあることを認定する制度です。公共料金等の割引や、税金の減免などが受けられるようになります。
精神障害者保健福祉手帳は、状態の程度に応じて以下の3つの級に分かれています。
・1級:他人の介助がなければ日常生活を送れない
・2級:日常生活が著しい制限を受ける
・3級:日常生活や社会生活が制限を受ける
申請は、初診日から6ヶ月以上経過しているときに可能です。経済的な支援のほか、求職時に障害者枠での応募や採用ができるメリットもあります。
障害年金制度
障害年金制度は、年金の支給が受けられる経済的支援です。大きく国民年金法に基づく障害基礎年金と、厚生年金保険法に基づく障害厚生年金のふたつに分けられます。
それぞれの年金制度によって支給要件の確認や申請方法が異なります。自治体の窓口で自分で申請や相談を行うほか、難しい場合は病院のソーシャルワーカーや社会保険労務士に申請のサポートを依頼する方法もあります。
自閉症の方が利用できる就職支援
自閉症の方の社会復帰や就職、転職を目指すときに利用できる支援も多くあります。具体的な自閉症の方が利用できる就職支援を紹介します。
ハローワークでの職業相談・職業紹介
ハローワークでは、自閉症の方に対する以下の支援を行っています。
・障害特性に応じたきめ細かな職業相談
・福祉・教育等関係機関と連携した就職の準備段階から職場定着までの一貫した支援
・障害者トライアル雇用事業
・精神・発達障害者雇用サポーター
・障害学生等雇用サポーター
障害者トライアル雇用事業
障害者トライアル雇用事業とは、自閉症を含む障害者を一定期間(原則3か月)試行雇用する制度です。試行雇用期間内に障碍者の適正や能力を見極め、求職者と事業主の相互理解を深めることで継続雇用への移行につなげることを目的としています。
精神・発達障害者雇用サポーター
精神・発達障害者雇用サポーターとは、精神障害や発達障害等のある求職者に対して、障害特性を踏まえた専門的な就職支援や職場定着支援を提供するサポーターのことです。求職中の障害者だけでなく、事業主に対する精神・発達障害者等の雇用に関する課題解決のための相談援助なども実施されています。
障害学生等雇用サポーター
障害学生等雇用サポーターとは、疑いを含む発達障害などを持ち、障害特性に応じた専門的な就職準備支援を必要とする学生等や、障害があることを開示しての就職を希望している学生等について、就職準備段階から職場定着までの一貫した専門的支援を実施するサポーターです。大学等に対して発達障害等のある学生等への相談対応に関する助言や、企業等に対して、雇用管理に関する助言や定着支援等の提供も実施しています。
地域障害者職業センターでの支援
地域障害者職業センターでは、以下の就労支援を行っています。
・職業リハビリテーション
・職業能力開発
職業リハビリテーション
ハローワークとの連携の上、地域障害者職業センターにて職業評価、職業準備支援、職場適応支援等の専門的な各種職業リハビリテーションが実施されています。障害者職業総合センターでの技法開発の成果は、地域障害者職業センターで発達障害者に対する専門的支援を実施にも活用されています。
職業能力開発関係
地域障害者職業センターと関係各所との連携のもと、自閉症の方を対象に以下のような職業能力開発を行っています。
職業訓練の種類 | 特徴 |
一般の職業能力開発校 | 発達障害者を対象とした訓練コースの設置と、職業訓練を実施 |
障害者職業訓練能力開発校 | 発達障害者を対象とした専門的な職業訓練 |
居住する地域の企業、社会福祉法人、NPO法人、民間教育訓練機関等 | 障害の態様に応じた多様な委託訓練 |
ジョブコーチ支援
ジョブコーチ支援とは、ジョブコーチによる障害者の身近な地域にて就業や生活面での一体的な相談、支援の提供のことです。地域障害者職業センターに配置するジョブコーチのほか、就労支援ノウハウを有する社会福祉法人等や事業主がジョブコーチ助成金を活用してジョブコーチを配置したり、職場にジョブコーチを派遣したりするケースもあります。
自閉症の方に向いている仕事
自閉症の方が持つ障害特性の中には、仕事に活かせるものもあります。自閉症の方は自分の関心が高い分野に対して高い集中力がある、特定の領域の記憶力に優れている、情報処理能力が高い、ルールや定型にこだわるといった傾向が高いです。また、対人関係が困難になりやすい傾向から、不特定多数の人と関わりを持たない環境での仕事も向いていると言えるでしょう。
自閉症の方の傾向から、向いていると言える仕事の一例は以下の通りです。
・プログラマー
・工場の製品管理・ライン作業
・清掃業務
・研究職 など
ただし自閉症の障害特性の傾向はあくまで一例であり、実際の特性は自閉症を持つ方それぞれで異なります。自閉症を持つ方本人の特性をしっかり理解した上で、向いている仕事に就くことが重要です。
まとめ
自閉症の概要や特徴とともに、自閉症の方が受けられる経済的支援、就労支援について解説しました。自閉症の方は障害特性から社会生活に支障や困難が生じることがあります。けれども、適切な支援を受けることで経済的な負担を軽減したり、社会で活躍したりといったことも可能です。自治体の窓口や関連団体などの支援を提供しているところへぜひ相談してみましょう。
大阪府枚方市のJR学研都市線「長尾駅」前にある障がい福祉サービス事業所「あゆみ」では、自閉症の方への就労移行支援や職業訓練を提供しています。お気軽にご相談ください。