就労選択支援について
就労選択支援とは、新しい就労系障害福祉サービスの区分であり、“障害者本人が就労先・働き方についてより良い選択ができるよう、就労アセスメントの手法を活用して、本人の希望、就労能力や適性等に合った選択を支援する[1] ”サービスを受けられるようになります。
国としては、労働意欲のある障害をお持ちの方に対し、就労できる場を確保したい、自立した日常生活や社会生活を営めるよう支援したいと、法改正、支援強化を重ねてきましたが、その一環といえます。
障害特性により個人差があるものの、下記に列挙するとおり、働くことができる場所は自営業を選択した方を除き、
- 企業の障害者雇用枠(一般的就労、労働法・最低賃金法が適用)
- 就労継続支援A型事業所(福祉的就労、労働法・最低賃金法が適用)
- 就労継続支援B型事業所(福祉的就労、労働法・最低賃金法が適用されず)
という3つの選択肢が用意され、現在に至ります。
しかし2024年春に、雇用率達成支援ビジネス問題を通して考える障害者雇用問題研究会が公表した実態調査[2] では、企業で働く障害をお持ちの方91人の半数近くが、現状に満足していないことが明らかとなりました。
労働法・最低賃金法が適用されている一般的就労でも不満を持つ方がいるため、最低賃金以下の工賃で作業を行うことが常であり、満足のいく収入は得られているのは一握りである就労継続支援B型事業所の利用者で不満を感じている割合は、相当数にのぼるものと思われます。
就労継続支援B型事業所は、20歳以上の障害基礎年金1級受給者、50歳以上の方、就労経験があり、年齢・体力で雇用され働くことが困難となった方を除き、就労移行支援事業所などでアセスメントを受け、通所が適当と判断されなければ利用が認められていないのが実のところです。
つまり一般的就労、就労継続支援A型事業所でも働くことができなかった方の受け皿となっているのが、就労継続支援B型事業所なのですが、それにもかかわらず実はその建前を覆す興味深いデータがとれており、今回の就労選択支援の制度化へとつながったのではと思料しているところです。
2019年度、就労継続支援B型事業所から一般的就労へ進路変更した方が4,446人[3] [4] 。就労継続支援B型事業所を辞めた人の10人に1人以上が就労継続支援B型事業所で工賃をもらう生活から就職して賃金をもらえる生活にシフトしているのです。
追って詳細を述べますが、新たに創設された就労選択支援は、わかりやすく説明すると、就労継続支援B型事業所から一般的就労へ進路変更する人が、これからもっと増えていく。そのような制度となっています。
ここから、就労選択支援について、さらに深く掘り下げていきます。
就労選択支援の対象者
障害をお持ちの方、難病認定を受けられている方などで、就労移行支援や就労継続支援A型事業所、就労継続支援B型事業所に通所したいと考えている方、今まさに利用している方が対象です。
就労選択支援創設後の利用の流れ
新制度「就労選択支援」は、2025年10月1日に改正法施行、スタートすることが決まりました。
2025年10月からは、就労継続支援B型事業所に通所したいと考えた場合は、直接、利用申請することはできず、原則として「就労選択支援事業所」を先に利用することとなります。
また、就労継続支援A型事業所に通所して働きたいと考える、就労移行支援事業所を標準利用期間(2年)を超えて、利用したいと希望した方は、2027年4月以降、就労選択支援事業所を利用することとなる見込みです。
就労選択支援の目的
就労選択支援は、冒頭で述べたように本人の希望、就労能力や適性等に合った「より良い選択」ができることを目的とした制度です。
詳細は後述しますが、希望や能力をめぐり、利用者と通所先では方針や本音、思惑などで一致しないことが多く、利用者の不満材料となっていました。
その不満も一気に解消できるのが、この新制度といえます。
就労選択支援の具体的なサービス内容
就労選択支援事業所では、下記サービスを軸に、事業所は利用者の“味方”として動いていき、適切な進路を見出し、公共職業安定所などの連携・支援も受けつつ、一般的就労もしくは各事業所への通所につなげます。
- アセスメント
- 多機関連携会議
- 情報収集・提供
アセスメントでは、短期間の生産活動を就労選択支援員が見て、適性や知識、能力を評価したり、意向などを整理したりしてくれます。
多機関連携会議では、利用者はもちろん関係機関担当者らを招集し、利用者に就労に関する意向を改めて確認するとともに、アセスメント結果をどのように作成するかを、担当者らに意見を求め、よりよい進路選択ができるよう一緒に話し合います。
利用者のより良い進路選択に資するためには常時、関連情報の収集と利用者への提供も必要不可欠で、就労選択支援事業所の利用期間中は、支援員が情報を持ってきてくれて、選択肢も増やしてくれることを想定しているはずです。
就労選択支援ができると変わること
現状、障害をお持ちの方の進路といえば、
- 一般的就労
- 就労移行支援事業所
- 就労継続支援A型事業所
- 就労継続支援B型事業所
で、どちらかといえば希望よりも能力(アセスメント)によって1→2→3→4と割り振られていくと言ってもいいでしょう。
2の就労移行支援事業所は基本的に企業への就職を支援していくことから、利用終了後は1の一般的就労が想定されているものの、就労継続支援A型事業所、就労継続支援B型事業所という進路の選択も可能です。
しかしながら就労継続支援A型事業所、就労継続支援B型事業所は、どちらも今の制度上では、ずっと通い続けていくことを想定しており、就労継続支援A型事業所から別の進路。就労継続支援B型事業所から別の進路に進むのは、正直、想定外の事象なのです。
繰り返しますが2019年度、就労継続支援B型事業所から一般的就労へ進路変更できた方が4000人以上いたというのは、間違いありません。
たとえアセスメントの結果を受け、就労継続支援A型事業所、就労継続支援B型事業所に通所していたとしても、時間経過とともに「能力の変化」は起こりえるという、これまで考慮されていなかった事実を取り込んだ制度へと変わるのです。
つまり、就労継続支援A型事業所、就労継続支援B型事業所に通っていても、これからは、しっかりと上を目指せ、自分の可能性を高め、選択肢を広げることができるようになるでしょう。
就労選択支援の期待される効果
利用者の不満解消
就労系障害福祉サービス事業所も、運営側にとってはビジネスには変わりありませんので、利用者の確保と通所継続を促すことは職員として当然の行動であるといえます。
各事業所の本音としては、就労移行支援事業所は2年間みっちりと訓練をして就職していってほしい、就労継続支援A型事業所は末永く働いてほしい、就労継続支援B型事業所もずっと利用できるように常に、環境を整え続けると考えていることでしょう。
その本音が関係しているかは定かではありませんが、特に就労移行支援事業所の利用者と思われるSNSアカウントでは、
- スグに就職させてくれない
- 辞めたいのに辞めさせてくれない
といった声を拾うことができ、進路をめぐり不満を感じている方も少なくないようです。
通所していくなかで体力面や能力面で自信がつき、「早く働きたい」「もっと稼ぎたい」「企業で雇用されて働きたい」などと思うのも、それを事業所のビジネスのために、希望や能力を考慮しない対応をとられるのを不満に感じるのも、当たり前の話です。
また、就労移行支援事業所に通所されている利用者のなかには、
- 高等学校普通科卒
- 専門学校卒
- 大学卒
- かつて企業で働いていた
- 生活リズムを取り戻すために通っている方
- 人間関係を克服するために通っている方
もいて、そもそも訓練や座学といったプログラムなどを受ける必要性もなく、支援を受けずともスグに働ける方もいるのです。
現状は、就労移行支援事業所や障がい者就業・生活支援センターが担っているアセスメントですが、2025年10月以降は、就労選択支援事業所でアセスメントを行うこととなります。
そのとき、そのときの本人の希望がしっかりと尊重され、そのような事業所ばかりではないと考えておりますが、ビジネスの思惑に邪魔されることなく正しく能力が可視化されていく環境が確立されるようになるといえるでしょう。
そのため労働意欲の高い方や、すぐに就職したいのに支援してくれないと不満に思っている方を、就労選択支援事業所が良い方向へと導いてくれるはずです。
進路決定の短期化
前項でご紹介した不満の声を、間違いなく解消してくれる根拠というのが、その利用(支給決定)期間にあります。
端的に言えば、就労選択支援事業所では、短期集中での進路決定が可能です。
就労移行支援事業所の利用(支給決定)期間が原則2年であるのに対して、就労選択支援事業所の利用期間は原則1カ月(1カ月以上の時間をかけて作業を体験し、その様子を見ていく必要はある場合は2カ月)と決まっているのです。
そのため、マイペースに物事を進めていきたい利用者や、急激な環境の変化を嫌がる特性をお持ちの利用者にとっては、親和性の低い制度のようにも思えますが、逆に労働意欲の高い方や、進路をズバッと決めていきたい方にとっては良い制度であると断言できます。
より一層の能力向上
特に就労継続支援A型事業所、就労継続支援B型事業所に通所している方は、自分は一生「就労継続支援A型事業所で働くもの」「就労継続支援B型事業所で働くもの」と思い込み、自分で自分の能力の芽を摘む環境にあるのが現状ですが、就労選択支援では希望や能力が変わることを前提にサポートが行われます。
そのため就労選択支援事業所の創設によって、自分の可能性を信じ、能力が上がっていく方、また、利用によって就労継続支援B型事業所から一般的就労に転身できる方が、かなり増えていくことが、期待できるのです。
就労選択支援のサービスを提供する上での注意点
就労選択支援事業所の要件
就労移行支援、就労継続支援A型事業所、就労継続支援B型事業所で、過去3年以内に3人以上の利用者を一般的就労へとつなげた事業所、同等の能力を有すると都道府県知事が認めた事業所が実施主体となることができます。
就労選択支援事業所の義務
協議会への定期的な参加、公共職業安定所への訪問などを積極的に行い、情報収集と利用者への情報提供に努めなければなりません。
まとめ
就労選択支援事業所の制度化によってそのとき、そのときの希望や能力に合わせた進路選択が可能となることが、利用者にとってのメリットとなります。
また雇用主となる企業、就労継続支援A型事業所、工賃を支給する就労継続支援B型事業所から見ると、人材のミスマッチが起こりにくくなり、利用者から不満を持たれるリスクも減るでしょう。
就労選択支援事業所のサービスを実施しようと考えている就労系障害福祉サービス事業所は、今のうちから準備を始め、新制度開始日からサービスを提供できるように動かれるようにしてください。
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