軽度知的障害の方が一般就労を目指す場合、障害の特徴を理解したうえで適切な働き方や仕事を見つけることが重要です。今回の記事では、軽度知的障害の概要とともに一般枠と障害者枠の働き方の違い、さらに軽度知的障害の方に向いている仕事や就職活動のポイントを解説します。軽度知的障害の方の仕事に関する困りごとや対処法についても紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
軽度知的障害とは
知的障害とは、知的機能における障害が18歳未満までの発達期に現れる障害のことです。知的障害により、以下のように日常生活でさまざまな不自由が生じます。
・複雑な事柄・文章・会話の理解ができない
・買い物などの日常生活での計算ができない
・自分の状況や抽象的な表現が理解できない
・未経験の出来事や急な変化への対応ができない
知的障害はIQをひとつの判断材料として、重症度を4段階に分けています。軽度知的障害とは、基準値のIQ100に対して、IQ50〜69の範囲が該当します。軽度知的障害の方は、言葉や抽象的な概念を理解することは苦手ですが、日常生活で必要な身辺の自立は可能です。仕事も高度な技術や複雑な作業の理解が不要でなければできます。
軽度知的障害の方は、知的障害の中でも幅広い仕事の選択ができると言えるでしょう。
一般枠と障害者枠の働き方の違い
軽度知的障害の方が働く場合、一般枠と障害者枠いずれかを選ぶことになります。それぞれの働き方の違いを解説します。
一般枠での働き方
一般枠は、健常者と同じ条件で雇用します。以下に一般枠でのメリットとデメリットを記載しました。
メリット | ・給料面での条件が良いことが多い ・求人数が多い ・やりたい仕事を見つけやすい ・キャリアアップにつながる |
デメリット | ・健常者と同じ出来栄えを求められる ・障害者としての特別な配慮は期待できない ・障害を隠して働く(クローズド)場合、大きなストレスがかかる ・休みが取りにくい |
健常者と同じ条件で働くため、給料面や求人の多さと言ったメリットがあるものの、仕事の出来栄えも健常者と同じものが求められます。障害者としての特別な配慮が得られないため、通院や治療のための休みも取りにくい場合もあるかもしれません。
自分が軽度知的障害者であることを隠したい場合は、一般枠にクローズドとして働けます。ただし、クローズドで働くことで負担やストレスがかかり、体調不良や適応障害になってしまうこともあるでしょう。
障害者枠での働き方
障害者枠は障害者雇用促進法にもとづく、障害があることを前提とした雇用枠です。以下のメリット、デメリットがあります。
メリット | ・職場が障害に理解のあることが多い ・雇用形態を柔軟に選べることがある ・通院や治療が必要な休みや時間が確保しやすい ・障害の特性に対する配慮や支援が受けられる ・職場への定着率が高い |
デメリット | ・給料が一般枠よりも安いことが多い ・求人数が少ない ・障害者であることを開示(オープン)する必要がある |
障害者枠は障害者であることを前提として働くため、障害に対する配慮を受けやすいのがメリットです。障害の特性に合わせた仕事が得やすい分、求人の数は一般枠よりも少なくなります。また、給与面も一般枠よりも安い場合が多いです。
障害者であることを開示して働くため、障害を周りに開示することに抵抗がある人は障害者枠の利用が難しいと言えます。
軽度知的障害の方の仕事でよくある困りごと・対処法
軽度知的障害の方は、発達の特性や苦手なことなどから、仕事上で困りごとが発生してしまうこともあるでしょう。軽度知的障害の方の仕事でよくある困りごとを、対処方法とともに解説します。
職場のルールやマナーが理解できない
軽度知的障害の方は、職場で存在する多くのルールやマナーが理解できないことがあります。特に専門用語や複雑な表現が使われているものや、明文化されず暗黙の了解のものなどは理解しづらいでしょう。その結果、悪気なくルールを破ったり、マナー違反をしてしまったりといったことがあるかもしれません。
対策としては、以下の方法があります。
・図やイラスト付きのルールやマナー表を作る
・ルールやマナーの勉強会を開催し」
・わからないことを相談する人を決める
連絡や報告ができないことがある
軽度知的障害の方は、話の内容や文章をまとめるのが苦手なため、連絡や報告ができない、または滞ってしまうことがあります。連絡や報告をスムーズに行う対策としては、以下の方法が有効です。
・連絡や報告が不要なルーティン業務を担当さえる
・チームで作業し連絡や報告を他の人にまかせる
・いつ、誰に報告するのかを明確にする
・チェックリストなど報告方法を決めておく
仕事を覚えるのに時間かかる
軽度知的障害の方は、特に複雑な作業や工程の多い仕事は覚えるまでに時間がかかることがあります。途中で作業の内容ややるべきことがわからなくなってしまうためです。仕事がわからなくなったときでも見返して作業が続けられるような、以下のような対策を行いましょう。
・イラストやふりがなをふるなど、視覚的にわかりやすいマニュアルを用意する
・チェックシートを作成する
・当初は一緒に作業を行う
・使う道具を色分け
・集団作業でもマンツーマンで作業を教える
スケジュール通りに進めるのが難しいことがある
軽度知的障害の方は、納期や締切から作業を逆算したり、スケジュール管理が苦手だったりする方も多いです。スケジュール通りに仕事を進めるのが難しい場合は、以下のような対策を行いましょう。
・スケジュールな口頭だけでなく予定表としてとしても貼りだす
・イラスト付きの予定表を作成する
・定期的に進捗確認をする
・チームで作業を行う
社内文書やメールなどが読めないことがある
軽度知的障害の方は難しい漢字が読めなかったり、複雑な表現が理解できなかったりする方もいます。社内の文書やマニュアル、メールが読めない、理解できないときには以下のような対策を行いましょう。
・該当文書にふりがなを振る
・口頭で合わせて説明する
・マニュアルにイラストや写真などを使用する
口頭での指示が理解できないことがある
軽度知的障害の方は、口頭での説明が理解できないことがあります。口頭での指示や抽象的な指示が理解できない場合は、以下のような対策が有効です。
・数字などを使って具体的に指示をする
・指示する仕事内容をあらかじめ見せておく
複数の指示や依頼が受けられない
軽度知的障害の方は、一度に多くの指示や依頼を受けると混乱してしまうことがあります。優先順位を付けるのが苦手な方も多いため、業務指示や依頼は複数頼まず、一度のひとつずつにすることで解決できるでしょう。
計算ができない
軽度知的障害の方は、お金や時間の計算が困難な場合があります。特に暗算が必要な場合、すぐに計算できずに手が止まってしまうこともあるでしょう。計算が難しいときには、以下の対処方法がおすすめです。
・スマホや計算機などのツールを使う
・アラーム機能を使う
軽度知的障害のある方に向いている仕事
軽度知的障害のある方に向いているおもな仕事を紹介します。
マニュアルが完備されている仕事
マニュアルが完備されている仕事なら、軽度知的障害の方も仕事内容を覚えやすいことが多いです。工場での部品組み立てや清掃などの仕事が該当します。
業務の変化が少ない仕事
業務の変化が少なく一定の作業を繰り返す仕事も、軽度知的障害の方に向いています。部品の組み立て、倉庫整理、クリーニングなどが該当します。
少人数で行う仕事
対人関係が苦手な軽度知的障害の方には、少人数で行える仕事が向いていあると工場の仕事、清掃などです。
軽度知的障害者の就職活動のポイント
軽度知的障害者の方の就職活動の方法とポイントを順に解説します。
地域障害者職業センター
地域障害者職業センターとは、知的障害など障害のある方を対象に以下のような支援を行う施設です。
・職業相談や職業評価
・職業活動の計画作成
・職業準備訓練
・書類添削や面接練習などのサポート
・就職後のジョブコーチ支援
就職活動のための支援はもちろん、就職後職場にスムーズに定着するためのサポートを提供しているのも特徴です。基本的に各都道府県に1機関のため、場所を確かめて利用しましょう。
障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターは、障害のある方に対して仕事のほか、以下のような金銭管理や自己管理などの相談やサポートを提供する施設です。
・金銭管理や生活習慣形成のサポート
・住居や年金などの手続きのサポート
・就職に関する相談
・就職準備訓練
・就職定着支援
ハローワーク
ハローワークは、雇用に関する業務を担当する行政機関です。障害のある方向けの窓口で、以下のような支援を行っています。
・障害の特性に合わせた求人の紹介
・職業相談
・各種セミナーや面接会の案内
・ハロートレーニング(就職に必要なスキルを身につけるトレーニング)の実施
・障害者トライアル雇用(一定期間働いたあとで正式契約する雇用)の手続きや案内
・履歴書や職務経歴書の書き方支援
・面接の練習
障害者の雇用に関する総合的な支援を提供しています。
軽度知的障害のある方の就労形態
軽度知的障害のある方の就労形態を以下にまとめました。
一般雇用 | 健常者の方と同じ条件で働く |
障害者雇用 | 障害者であること前提で働く |
福祉雇用(就労継続支援) | 就労継続支援A型:就労継続支援事業所と雇用契約を結んで工賃が支払われる就労形態 |
就労継続支援B型:就労継続支援事業所へ通って作業し、工賃を受け取る就労形態 |
前述の一般雇用や障害者雇用のほか、福祉雇用である就労継続支援施設のサポートを受ける方法もあります。
軽度知的障害の方の仕事探しには就労移行支援がおすすめ
軽度知的障害の方が一般就労を目指す際に覚えておきたい、働き方や仕事での困りごとと対処方法、就職活動のポイントや雇用形態について解説しました。軽度知的障害の方が安定して働ける職場に定着するには、障害の特性や苦手なことを踏まえた職場や雇用形態を選ぶことが重要です。一般就労を目指したいときには、就労移行支援施設を利用するのも良いでしょう。